分析事例

シランカップリング剤を含むシラン硬化物構造解析(固体NMR分析)

有機材料と無機材料を結合する働きを有するシランカップリング剤は複合材料の接着、無機フィラーの表面改質等に利用されています。シランカップリング剤は分子内に有機材料および無機材料と結合する官能基を有することが特徴です。今回はシランカップリング剤を含むシラン3種の混合物を硬化させ、固体29Si NMR測定および13C NMR測定を実施し、シランの状態の変化を調べた事例を紹介します。

分析試料・条件

3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、T種のSi核含有)とジメトキシジフェニルシラン(D種のSi核含有)、テトラメトキシシラン(Q種のSi核含有)の3種のシラン混合硬化物。これを固体29Si、13C NMR測定(VARIAN社製VNMRS600)に供しました。

分析結果

シラン3種混合硬化物の固体29Si NMRスペクトルを図1に示します。図1に構造式で示したように、Si核の種類の違いに応じた化学シフト値にピークが検出されました。

図1 シラン3種混合硬化物の固体29Si NMRスペクトル

図1 シラン3種混合硬化物の固体29Si NMRスペクトル

図1のR1~R3がSi核の場合はシランが架橋構造を形成し、H核の場合はメトキシ基が加水分解したものの、その後の脱水反応に進まず架橋構造を形成していないことを示します。テトラメトキシシランの場合は、すべてのメトキシ基がSi-O-Si結合に変化したQ4が最も多く検出されました。また、4つのメトキシ基の内、3つがSi-O-Si結合、1つがSi-OH結合に変化したQ3が次に多く検出されました。Q1、Q2は検出されませんでした。

シラン3種混合硬化物の固体13C NMRスペクトルを図2に示します。図2に構造式で示したように、ジメトキシジフェニルシラン硬化物由来のフェニル基および3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン硬化物由来の3-グリシドキシプロピル基のピークが検出されました。

図2 シラン3種混合硬化物の固体13C NMRスペクトル

図2 シラン3種混合硬化物の固体13C NMRスペクトル

図1、2より、今回の条件で硬化させたシラン3種混合硬化物中では、Si-O-Si架橋が形成されていました。また、グリシジル基は未反応であり(を付したグリシジル基のCH2、CHの積分値が10ppm付近のを付したSiCH2と同等の積分値となっていたため)、架橋構造を形成していないことが示されました。
本手法を用いることで、未知のシランカップリング剤を含むシラン混合硬化物であっても元のモノマー種を予想することや、反応後の架橋構造を把握することができます。