分析事例

シリコーン化合物の分解分析 (2)

シロキサン結合は化学的安定性に優れていますが、シリコーン樹脂の構造を詳細に分析することは難しく、架橋構造を有するシリコーン樹脂は有機溶剤には溶解しないため、その構造を解析することはより困難です。当社はこのようなシリコーン樹脂を分析するためにオルトギ酸メチルを用いた化学分解法を提案します。オルトギ酸メチル(MOF)分解法は比較的低い温度(室温〜100℃)でシロキサン結合を選択的に分解することが可能です。ここでは、架橋構造を有するポリシロキサン化合物の分析事例について紹介します。

架橋構造を有するポリシロキサンのMOF分解

ビニル末端直鎖型ポリシロキサンと環状シロキサンを用いて架橋構造を有するポリシロキサン(架橋ポリシロキサン)を調製しました。得られた固体状の試料にオルトギ酸メチル、メタノール、硫酸からなる溶液を加え、MOF分解を行いました(図1)。MOF分解溶液をGC/MS測定した結果、主鎖および架橋点の分解物を検出することができました。主鎖の分解生成物をGC/MSにより定量したところ(表1)、高い分解収率を示しました。

図1 架橋ポリシロキサンおよびそのMOF分解物の構造とGC/MS測定結果

図1 架橋ポリシロキサンおよびそのMOF分解物の構造とGC/MS測定結果

表1 架橋構造を有するポリシロキサン主鎖の分解収率

分解生成物分解収率(%)CV値(%)
主鎖分解物
(ジメチルジメトキシシラン)
944.3

無機物を含むポリシロキサンのMOF分解

シリコーン樹脂を用いた製品は、無機フィラーを含むことが多くあります。シロキサンは熱分解によってシリカに変化するために、シリコーン樹脂中の無機フィラーとポリシロキサンの組成を知ることは困難です。各々を定量的に分析し、無機フィラーを含むシリコーン樹脂の組成を明確にするにはMOF分解法が有効です。
そこで無機シリカを加えて調製した架橋ポリシロキサン(無機物含有ポリシロキサン)と市販品(シリコーンチューブ)のMOF分解を行いました(図2)。MOF分解溶液には不溶分が存在したため、不溶分を分離しました(図3)。不溶分は重量法により定量し、可溶分はNMR法によりポリシロキサンを定量しました(表2)。配合既知の無機物含有ポリシロキサンでは仕込み量に対して良く一致した値を示しました。さらに、未知配合の市販品の組成も分析することが可能でした。


図2 MOF分解前後
左:MOF分解前、右:MOF分解後

図3 無機物含有ポリシロキサンの分析フロー

表2 架橋構造を有するポリシロキサン主鎖の分解収率

分析試料成分仕込み量(%)分析値(%)
無機物含有
ポリシロキサン
ポリシロキサン8483
無機物1615
市販品
(シリコーンチューブ)
ポリシロキサン65
無機物34

MOF分解法の利点

  • 架橋構造を有しているポリシロキサンをMOFを含む溶液に膨潤させてモノマー単位にまで分解できます。主鎖および微量の架橋点の構造解析が可能であり、主鎖部分を高い精度で定量できます。
  • MOF分解法は無機物に影響を及ぼさずにポリシロキサンを分解することが可能です。さらに、重量法により無機物量を、MOF分解物のNMR法によりポリシロキサンを精密に定量できます。