香気成分の定性分析には、網羅的に成分を検出できる方法として、ダイナミックヘッドスペース(DHS)-GC-O/MS分析法(DHS法)を用います。しかし食品分析においては、香気のキー成分が微量である場合や、熱により香気成分が変性する試料では従来のDHS法で十分な結果が得られない場合があります。このような場合に、SA-SBSE(Solvent Assisted Stir Bar Sorptive Extraction)法が有効です。SA-SBSE法は以下の特徴を有しています。
試料前処理法に、SA-SBSE法またはDHS法を用いてGC-O/MS分析を行いました。SA-SBSE法は、試料中香気成分をスターバーで抽出し、アセトン100μLで脱着後、大量注入にてGC-O/MSに導入しました。
得られたクロマトグラムおよびにおいシグナルを図1に示します。DHS法と比較して、SA-SBSE法は高沸点領域において多くの成分とにおいシグナルが検出されました。SA-SBSE法のみ検出された主要香気3成分の定性を行った結果、いずれも極性香気成分であることが分かりました(図1.(c)①、②、③)。におい質および定性(推定)結果を表1に示します。
図1. 日本酒のGC-O/MS分析結果
(a)TIC(SA-SBSE)、(b)TIC(DHS)、(c)においシグナル(SA-SBSE)、(d)においシグナル(DHS)
R.T.(min.) | においの質 | 定性(推定)成分 | |
---|---|---|---|
① | 27.7 | 生乾き | ヘキサン酸 |
② | 32.2 | すっぱい | オクタン酸 | ③ | 34.8 | 燻製 | メトキシビニルフェノール |
SA-SBSE法を用いた試料抽出溶媒の大量注入により、DHS法で検出しにくかった飲料中の微量極性香気成分の検出が容易となります。食品中の香気成分分析においては、まずはDHS法で網羅的な定性分析を実施し、その後、極性成分の定性を追求したい、または熱による香気の変性を抑えて感度よく定性したい場合に、SA-SBSE法による分析が有効となります。