近年の環境志向の高まりから、タイヤの低燃費性能とグリップ性能の向上を両立するために、充填剤としてシリカが広く使用されています。このようなタイヤ中に添加されたシリカ粒子表面では、運動性の低いポリマー相(バウンドラバー相)を形成しており、タイヤの力学特性に密接に関係することが知られています。そのため、タイヤの性能向上には、シリカの分散状態やバウンドラバー相の制御が必要になります。ここでは、市販タイヤ(シリカ充填ゴム)についてSPM(走査型プローブ顕微鏡)による機械特性マッピング(PeakForce QNM)を行い、タイヤ中のシリカ粒子の分散状態とバウンドラバー相を可視化した事例を紹介します。
PeakForce QNM(Bruker製 Dimension Icon)
市販タイヤ断面の弾性率像を図1に示します。
黒色の弾性率の低いゴム層に、最大約600nmサイズの弾性率の高いシリカ粒子(青色)が、分散していました。シリカ粒子とゴムの界面には、バウンドラバー相(緑色:シリカ粒子とゴムの中間の弾性率)が、存在していることが明瞭に確認されました。
このように、SPMによる機械特性マッピングは、高分子ナノ材料の微細構造や特性分布の解析に活用することができます。
図1 タイヤ断面の弾性率像(2×2μm)(左) 相の説明(右)