分析事例

試料中のタンパク質同定・比較解析(LC-TOFMS)

細胞、微生物やその培養液など、生物由来の試料中には膨大な種類のタンパク質が含まれています。これらの同定、いわゆるプロテオーム解析には液体クロマトグラフィー—飛行時間型質量分析(LC-TOFMS)法が有効です。

カネカテクノリサーチでは、LC-TOFMSによる測定法の中で、従来定性プロテオーム解析に用いられてきたショットガン法に加え、近年非ラベル化定量法として注目されているSequential window acquisition of all theoretical fragment ion spectra(SWATH)法での測定が可能です。これにより試料から得られるすべてのMS/MSスペクトルデータが1回の測定で取得可能で、主成分分析等の解析手法を組み合わせることで網羅的なタンパク質の比較・定量解析に活用できます。ここでは、試料中のタンパク質の同定、及び試料間の差分分析のモデル試料として酵母タンパク質抽出物を用いてタンパク質の一斉同定及び試料間比較を行った事例についてご紹介します。

分析試料

  • 酵母タンパク質抽出物、BSA(ウシ由来)、ミオグロビン(ウマ由来)

分析装置

  • SCIEX社製 TripleTOF6600(LC-TOFMS)

分析方法

ショットガン法:ペプチダーゼ(トリプシン)で処理した酵母タンパク質抽出物をLC-TOFMS法により測定し、得られたデータを公知のデータベースで検索することでタンパク質を同定しました。
SWATH法:試料間比較のモデル実験として、酵母タンパク質抽出物にBSA及びミオグロビンを添加し、上記と同様に前処理した後、SWATH法により測定しました。尚、各測定はN=2で行いました。

分析結果

1.ショットガン法によるタンパク質の一斉同定

ショットガン法によりトリプシンで処理した酵母タンパク質抽出物を分析・解析した結果、1200種類程度のタンパク質を同定することができました。その一例(10種)を表1に示します。

表1 酵母タンパク質抽出物から検出されたタンパク質例(10種)

酵母タンパク質抽出物から検出されたタンパク質例
2.SWATH法による試料間の比較と主成分分析

試料間の差分分析のモデルとして、酵母タンパク質抽出物中にBSA及びミオグロビンを添加し(Sample1, 2、図1中に記載)、SWATH法により測定しました。解析により算出したタンパク質の面積(検出されたペプチドの面積から算出)を用いて主成分分析を行い、スコアプロットで試料間の差、ローディングプロットで差を示す成分を確認しました。結果を図1、図2に示します。

  • 図1 主成分分析の結果(各N=2)
    図1 主成分分析の結果(各N=2)
    (スコアプロット)
  • 図2 主成分分析の結果
    図2 主成分分析の結果
    (ローディングプロット)

主成分分析の結果、スコアプロット(図1)においてPC1軸(寄与率:56.0%)に沿って各試料(BSA、ミオグロビンの添加水準を変えたもの)がプロットされました。また、ローディングプロット(図2)により、試料間の差に寄与する成分を可視化しました。その結果、添加した成分であるBSA、ミオグロビンがそれぞれ差を示す成分として確認できました。今回はモデル試料を用いましたが、主成分分析により試料毎に特徴的な成分を見つけ出すことが可能であることがわかりました。

まとめ

ショットガン法でタンパク質を同定し、SWATH法と主成分分析を組み合わせた解析を行うことで、図2に示すように多試料間の比較・成分変化の解析が可能です。この技術は、細胞、微生物及びその培養液の特性解析や、バイオ医薬品中の宿主由来不純物(ホストセルプロテイン)の分析、工程管理などに応用可能です。