スマートフォンなどに使用されるディスプレイやレンズには、耐擦傷性や耐摩耗性を向上させるために、ハードコート(以下HC)が塗工されます。HCに添加されるナノ粒子は、凝集体を形成しやすく凝集体の影響無しに、ナノ粒子の粒径を測定する方法は限られます。ここでは、塗工液の状態で凝集の度合いが異なるナノシリカの粒度分布を小角X線散乱(SAXS)により分析した事例を紹介します。
図1 試料の模式図
両試料のSAXSプロファイルを図2に、ナノシリカの粒度分布を図3に示します。図2のSAXSプロファイル(重ね合わせ)に着目すると、凝集性の高い試料のq<0.1nm-1の領域の散乱強度(緑線)は、凝集性の低い試料(赤線)より高いことが示されました。この領域にはナノシリカの凝集の効果が現れるため、SAXSプロファイルからナノシリカの凝集の強弱が比較できます。また、SAXSにより求めたナノシリカの平均粒径はどちらのHC塗工液でも15.6nmでした。よってSAXSを用いることで凝集状態が異なっても、一次粒子(ナノシリカ)のみの情報を抽出し、粒度分布を求めることができました。
このように、SAXSは凝集体を形成しやすいナノ粒子の一次粒子径を、測定することが可能です。