分析事例

ペプチドマップ法によるバイオ医薬品の特性解析(LC-TOFMS)

バイオ医薬品をはじめとする、バイオテクノロジーを利用して生産されたタンパク質は複雑な構造を持っており、品質、有効性、安全性を確認するためには特性解析試験が必要です。
特性解析試験の項目「構造および物理化学的性質」(表1)には、液体クロマトグラフィー・飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)が有効です。中でも、酵素によりタンパク質を分解し、より小さな断片としたものを測定するペプチドマップ法を用いることにより、アミノ酸配列やジスルフィド結合などの一次構造、糖鎖修飾など複数の特性を解析可能です。
ここではペプチドマップ法(還元・非還元)により、IgG抗体のアミノ酸配列やジスルフィド結合位置を解析した事例をご紹介します。

表1 タンパク質の特性解析試験項目例(構造および物理化学的性質)
項目 分析方法の例
a) アミノ酸組成 アミノ酸分析
b) 末端アミノ酸 還元ペプチドマップ法
c) アミノ酸配列 還元ペプチドマップ法
d) ジスルフィド結合 非還元ペプチドマップ法
e) 糖鎖構造 糖鎖構造解析
f) 糖鎖結合部位 還元ペプチドマップ法
g) 単糖組成 単糖分析

分析試料

  • IgG抗体

分析装置

  • SCIEX社製 TripleTOF6600(LC-TOFMS)

分析方法

還元ペプチドマップ法、非還元ペプチドマップ法

分析結果

還元ペプチドマップ法、非還元ペプチドマップ法により前処理した試料をLC-TOFMS測定に供しました。得られたクロマトグラムを図1に示します。

IgG抗体のクロマトグラム

図1 IgG抗体のクロマトグラム 還元ペプチドマップ法(上)及び非還元ペプチドマップ法(下)

還元ペプチドマップ法

還元ペプチドマップ法では、タンパク質のアミノ酸配列の分析が可能です。図1で得られたクロマトグラムから、検出されたIgG抗体のペプチドを解析し、アミノ酸配列カバー率(Sequence Coverage)を確認しました。その結果、検出されたペプチドから算出したアミノ酸配列カバー率は100%(図2)であり、第17改正日本薬局方 参考情報「ペプチドマップ法」に収載の目標値(95%以上)を満たしました。

IgG抗体のアミノ酸配列及びアミノ酸配列カバー率

図2 IgG抗体のアミノ酸配列及びアミノ酸配列カバー率(100%)

非還元ペプチドマップ法

非還元ペプチドマップ法では、ジスルフィド結合位置の分析が可能です。図1から還元ペプチドマップ法との差を示すピーク(保持時間11.7分、図1内の星印)のペプチドを確認した結果、重鎖の264番目と324番目のシステイン間でジスルフィド結合が形成されたペプチドであることがわかりました。(図3)

非還元ペプチドマップ法により検出されたジスルフィド結合形成ペプチドの例

図3 非還元ペプチドマップ法により検出されたジスルフィド結合形成ペプチドの例

まとめ

還元・非還元ペプチドマップ法により、バイオ医薬品(既知タンパク質)におけるアミノ酸配列、ジスルフィド結合形成位置などの品質情報を明らかにすることが可能です。