分析事例

食用油中のトリグリセリドの分析(LC-TOFMS)

食品の栄養素の中で重要な成分のひとつに脂質があり、食用油に含まれる脂質の90%以上はトリグリセリド(TG)で構成されています。TGは、グリセリンに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造(図1)です。近年は健康への関心から、TGを構成する脂肪酸としてオメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸など)や中鎖脂肪酸も注目されていますが、TGの構造を明らかにするためには質量分析による構造解析及び構成脂肪酸の分析が必要です。
これらのTGの分析には、液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)が有効であり、MSスペクトル、MS/MSスペクトルからTGの構造及び構成脂肪酸が推定可能です。ここでは、市販の食用油の分析事例をご紹介します。

図1 トリグリセリドの構造(R1~R3: 構成脂肪酸)

図1 トリグリセリドの構造(R1~R3: 構成脂肪酸)

分析試料

市販食用油
  • (なたね油、ごま油、オリーブオイル、アマニ油、MCT注)オイル)計5種
    注)中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)

分析装置

  • SCIEX社製 Triple TOF6600(LC-TOFMS)

分析方法

試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解後、適宜メタノールで希釈してLC-TOFMS分析に供しました。

結果

試料の分析結果の一例として、なたね油から得られたトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)を図2に示します。多数のピークが検出され、それらは構成脂肪酸の総炭素数、不飽和結合数に応じて分離されていることがわかりました。

図2 なたね油のTIC

図2 なたね油のTIC
*赤字は検出された主なTG種(TG X:Y表記 X:構成脂肪酸の総炭素数、Y:不飽和結合数)

検出されたピークのひとつ(図2中TG 54:3)について、TGの構成脂肪酸の推定を行いました。同ピークからは同一の分子量を持つ構成脂肪酸の異なる成分が観測されました。図3に示すようにMS/MSスペクトルを解析することで、構成脂肪酸を推定することが可能です。

図3 なたね油から検出された成分のMS/MSスペクトル解析例

図3 なたね油から検出された成分のMS/MSスペクトル解析例

次に、各試料中に含まれるTGを比較しました。例として各試料に特徴的と考えられた3種(TG 54:3、TG 54:9, TG 28:0)についてピーク強度を比較した結果を図4に示します。オレイン酸(18:1)3分子から構成されるTG 54:3はオリーブオイル、なたね油、ごま油の順に強度が高く検出されました。リノレン酸(18:3)3分子から構成されるTG 54:9はアマニ油に特徴的で、カプリル酸(8:0)、カプリン酸(10:0)2分子から構成されるTG 28:0はMCTオイルに特徴的であることがわかりました。

図4 TG3種(TG54:3, TG54:9, TG28:0)の試料間強度比較

図4 TG3種(TG54:3, TG54:9, TG28:0)の試料間強度比較
(構成脂肪酸:A:B表記 A:脂肪酸の炭素数、B:不飽和結合数)

また、各試料から検出されたTGのうち、各試料の上位3種を表1に示します。

表1 各種食用油から検出された主要なTG一覧(各上位3種を表示)

表1 各種食用油から検出された主要なTG一覧(各上位3種を表示)

注)本分析ではアシル基の側鎖位置(sn-1~3)、異性体(cis-trans)、及び二重結合位置は特定できません。一例を紹介しておりますが、実際にはさらに多数のTG種、構成脂肪酸が含まれる可能性があります。

まとめ

LC-TOFMS分析により、市販の食用油に含まれるTGの構造及び構成脂肪酸を推定することができました。弊社では食用油以外にも、食品中に含まれるTGの分析、その他の脂質種(ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、リン脂質等)なども分析可能です。