食用油は、揚げ物、炒め物など調理に欠かせません。加熱調理に繰り返し使用することにより、油は加水分解および酸化され、においも変化していきます。そのスピードは、油の種類によって異なり、飽和脂肪酸は酸化しにくく、不飽和脂肪酸は酸化しやすいと言われています。そこで今回、飽和脂肪酸の多いココナッツオイルと不飽和脂肪酸(オメガ6脂肪酸)である大豆油の非加熱、加熱品について、においの変化(官能評価)と組成変化を観察した事例をご紹介します。
LC-TOFMS分析の結果を図1に示します。この分析でMSスペクトルを取得し解析を行うと、飽和脂肪酸から構成されるトリアシルグリセロール(TG)の存在量は大豆油よりココナッツオイルの方が多いことが示唆されました(図1 左図)。また加熱の有無による試料間の顕著な差はみられませんでした。一方で、不飽和脂肪酸から構成されるTGの解析を行うと(図1 右図)、ココナッツオイルではTGがほとんど検出されておらず、大豆油では加熱によってTGの含有量が減少していました。既知の情報より、減少したTGは遊離脂肪酸となると示唆されます。
DHS-GC/MS分析によるトータルイオンカレントグラム(TIC)を図2に示します。その結果、ココナッツオイルについては、非加熱試料より加熱試料の検出成分量は減少しました。特にココナッツオイルの特徴的な香り成分であるδ-Hexanolactone、δ-Octanolactone、δ-Decalactone()は顕著に減少しました。一方で大豆油は、非加熱にはない、Hexanal、2-Hpetenal、2,4-Heptadienal,2,4-Decadienal()等カルボニル化合物27種が加熱試料で検出されました。既知の情報より、これらが劣化臭の原因と考えられます。
ココナッツオイル、大豆油の非加熱および加熱サンプルについて、複数パネル(臭気判定士)により官能評価を実施しました。大豆油について、非加熱試料は無臭に近いですが、加熱試料は油の劣化臭がしました。ココナッツオイルについては、非加熱試料はココナッツの香りが強く、加熱試料はココナッツの香りが弱くなっているものの油の劣化臭は感じられませんでした。本官能評価結果により、2.DHS-GC/MS分析結果の妥当性を確認できました。
食用油をLC-TOFMSで分析することにより、加熱によるトリグリセリドの組成変化を明らかにすることができました。また、DHS-GC/MSにて分析した結果、官能評価と相関のあるデータが取得できました。
以上より、油の劣化について、トリグリセリドが加水分解し遊離脂肪酸が増加、脂肪酸の酸化により生成した過酸化物の分解により、アルデヒド等のカルボニル化合物が増加し、これが劣化臭の原因となる。また、食用油の中でも、不安定な不飽和脂肪酸をもつ油の方が劣化(酸化)しやすい。という既知の情報を改めて確認することができました。