分析事例

パン焼成過程に発生する香りの分析
(官能評価・スニッフィングGC/MS・SIFT-MS)

焼きたてパンの香りは焼成時に生成される様々な揮発性成分により構成されており、商品の“おいしさ”を直感的に伝える重要な要素です。本資料では官能評価に加え、香気成分の同定が可能なスニッフィングGC/MSと、ppbオーダーで揮発成分をリアルタイムに測定できるSIFT-MSを組み合わせることで焼成過程における香りの変化を捉えた分析事例を紹介します。

分析試料

  • 試料:クロワッサン
  • 焼成条件:210℃×10min
クロワッサンの画像

図1 焼成後のクロワッサン

分析結果

1. 官能評価

臭気判定士2名により、焼成後のパン(図1)を評価しました。その結果、焼成後の香りは『バター、ハニートースト、甘い乳製品様の香り』と表現されました。

2. スニッフィングGC/MS分析

スニッフィングGC/MSを用いて、焼成後のパンの香りを構成する香気成分を測定しました。図2上段はGC/MS-TIC(トータルイオンカレントクロマトグラム)、下段はにおいのシグナルを示します。測定の結果、図中のピークNo.1~7を焼成後のパンの香りに寄与する主な成分と選定しました。

グラフ
図2 スニッフィングGC/MSの分析結果
3. SIFT-MS分析

スニッフィングGC/MSにより選定した7成分について、SIFT‑MSを用いて焼成中の濃度変化をリアルタイムに測定しました(図3および4)。Acetoinおよび2‑Phenylethanolは、主に酵母代謝に由来する成分1)2)であり、焼成前の生地に既に存在することから、加熱により揮発したと考えられます。一方、Furfural、Maltol、HMFおよびFuraneolは、焼成後半にかけて濃度が上昇しました。これらは主にメイラード反応によって生成される成分1)2)3)であり、パン表面温度の上昇および反応進行に伴い発生量が増加したものと考えられます。このように、SIFT‑MSにより焼成中の香気成分の発生挙動を明確に捉えることができました。参考までに、表1に焼成開始から完了までの香気成分の総発生量を示します。

グラフ

図3 SIFT-MSによる定量結果

画像

図4 パン焼成およびSIFT-MS測定の様子

表1 スニッフィングGC/MSでの定性結果およびSIFT-MSによる定量結果
ピークNo. 化合物名 においの質 総発生量(ppmv)
1 Acetoin カラメル、甘い香り 360
2 Furfural コゲ、香ばしい香り 67
3 2‑Phenylethanol ハチミツ 30
4 2‑Acetyl pyrrole キャラメル、甘い香り 12
5 Maltol トースト、コゲ 33(HMFとの合算値)
6 Furaneol 甘い乳製品 8.8
7 HMF バター 33(Maltolとの合算値)

まとめ

本分析の手法を応用することで、様々な加熱・調理プロセスにおける香り立ちを捉えることができ、食品分野の製品開発や品質評価への応用が期待できます。弊社では、香りやにおいの課題に対応した分析手法をご提供しています。

参考文献

  • 1) 大西正展, 食パンのクラスト形成に伴う表面色と香気成分の変化特性に関する研究, 博士論文, 東京大学, 2011.
  • 2) A. Smith, B. Jones et al., Real-Time Monitoring of Volatile Compounds Losses in the Oven during Baking and Toasting of Gluten-Free Bread Doughs: A PTR-MS Evidence, Foods, No.9, pp.10, 2020.
  • 3) I. Blank et al., Formation of odour-active compounds in Maillard model systems based on proline, Flavour Research at the Dawn of the Twenty-first Century, pp.458-463, 2003.