X線光電子分光(XPS)の分析手法の1つに、光電子の脱出角度を変えて分析深さを変化させる角度分解XPS(AR-XPS)分析があります。AR-XPS分析は数nm以下の薄い層の深さ方向分析に対して有用で、“非破壊で”分析できることが利点です。ここではSiウエハ表面についてAR-XPS分析を行い、表面の自然酸化膜を分析した事例を紹介します。
XPS(単色化AlKα線)
図1にAR-XPS分析によって得られたSi2pスペクトルを示します(99.3eVの金属Siのピーク強度が揃うように規格化しています)。いずれの光電子の脱出角度(θ)においても、金属SiとSiO2に由来する2本のピークが観測されましたが、両者のピーク強度比はθによって異なり、θが小さくなるとSiO2由来のピークが強くなることが確認されました。図2に示すように、θが小さくなると分析深さが浅くなることから、Siウエハ表面の自然酸化は表面の極近傍で生じていることが示されました。
このようにAR-XPS分析によって表面の極近傍の情報を多く含んだスペクトルが取得できます。