X線光電子分光(XPS)分析で取得されるスペクトルには、元素の化学結合状態の情報が含まれます。PET(Polyethylene terephthalate)の場合、Cに着目するとC-C、C-O、O-C=Oの3種類の化学結合状態を有しています。化学結合状態が異なると結合エネルギーも異なるため、スペクトルにおけるピーク位置がシフトします(これを化学シフトといいます)。そのため、XPS分析ではCとOの割合だけでなく、CやOの化学結合状態の種類や割合の評価も可能です。
ここでは、XPSによりPETが有する化学結合状態の割合を評価した事例を紹介します。
PET(図1)
図1 PETの構造
XPS(単色化AlKα線)
測定によって取得されたC1s、O1sスペクトルをピーク分割すると、C1sスペクトルは3本、O1sスペクトルは2本のピークの重ね合わせであることが確認されました(図2)。PETは図1に示す構造で、Cは(1)~(3)の3種類、Oは(a)、(b)の2種類の化学結合状態を有しており、スペクトル中の個々のピークはそれぞれ図1の各元素の化学結合状態に対応します。また、分割したピークの面積比はそれぞれの化学結合状態の割合を示します。これらのピーク面積から各化学結合状態の割合を求めた結果を図2中の表に示します。
XPS分析では、ピーク位置(結合エネルギー)から元素の化学結合状態を評価でき、ピーク面積比から各化学結合状態の割合を把握することができます。
図2 PETのXPSスペクトル