架橋高分子は溶媒に溶けませんが,架橋密度や分子構造によっては溶媒に膨潤させることができます。このような試料には,試料を重溶媒に膨潤させ,マジックアングルスピニング(MAS)を用いてNMR測定(以下ゲルNMR測定)することで,高分解能な1H, 13C NMRスペクトルを得ることができます。さらに多変量解析(主成分分析)を組み合わせることで,複雑なNMRスペクトル間の比較が容易になります。今回は仕込みモノマー組成が既知であるMBS樹脂のゲル13C NMRを行い,得られた13C NMRスペクトルに多変量解析(主成分分析)を適用した事例をご紹介します。
MBS樹脂は,メタクリル酸メチル(MMA),ブタジエン(Bd),スチレン(St)からなるコアシェル構造を有する熱可塑性樹脂です。今回は仕込みモノマー組成が既知であるMBS樹脂8点を用いました。
試料をVarian社製NANOプローブ用NMR試料管(内容積約40 μL)に入れ,重クロロホルムを加えて膨潤させました。MASを用いて1H, 13C NMR測定しました。得られたNMRスペクトルをバケット積分し,主成分分析に供しました。
主成分分析により得られたスコアプロット(図1)は,仕込みモノマー組成比のプロット(図2)と対応していることがわかりました。
仕込みモノマー組成との相関を調べたところ,第一主成分はBd組成(CBd)からSt組成(CSt)を減じた値(CBd - CSt)(mol%)と良い相関(R2=0.989)を示し,第二主成分はMMA組成(CMMA)(mol%)と良い相関(R2=0.987)を示しました。
この手法はMBS樹脂だけでなく,ABS樹脂や多成分からなる高分子材料への応用も可能と考えられます。