電子機器のシーリング材には高い耐久性の観点から有機シリコーンがしばしば用いられます。しかしながら、有機シリコーンから発生する低分子シロキサンは接点障害の原因になるとされており、電子部品に付着した低分子シロキサンを評価する手法が必要になります。一般的な評価法として、ヘッドスペース-GC/MS法が挙げられますが、同法では容量20mLのバイアルに入る試料までしか対応できず、電子部品をそのまま評価することは困難です。
本分析事例では、低分子シロキサン雰囲気に曝したハードディスクドライブ(HDD)をそのままマイクロチャンバーを用いて分析し、試料に付着した低分子シロキサンを定量した結果を紹介します。
密閉容器に2.6インチのHDD(縦10cm×横7cm×高さ1cm)とシリコーン製のシーリング剤1gを互いに触れない様に入れ密閉しました。これを40℃で24h養生させ、低分子シロキサン雰囲気に曝したHDDを分析試料としました。
試料に付着した低分子シロキサンをマイクロチャンバーで脱着(80℃×5h)させ、発生ガス濃縮装置でTenax管に捕集しました。捕集したガスはATD-GC/MSで分析しました。
図1 分析試料 |
図2 サンプリングイメージ |
マイクロチャンバーを用いて上記環境で調整したHDDから発生するガスを分析し、得られたGC/MS-トータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)と、試料と同様に分析した標準品(D4およびD5、D6)のGC/MS-TICを図3に示します。
図3 HDDおよびD4~D6の標準品のGC/MS-TIC((a)HDD,(b)標準品)
分析の結果、試料に付着した低分子シロキサンはD4~D10であることがわかりました。これらの低分子シロキサンを定量した結果を表1に示します。D4~D6は標準品を用いて定量し、D7以降はD6換算で定量しました。各成分の定量下限は0.01μg/個です。
表1 試料から検出された低分子シロキサンの定量結果
低分子シロキサン | D4 | D5 | D6 | D7~D10 |
定量値(μg/個) | 13 | 6.3 | 8.8 | 4.8 |
マイクロチャンバーを用いることにより、HDDのような製品そのままの状態で付着成分のガス分析が可能です。本分析手法は、HDDの他にプリント基板やシリコンウェハーの付着成分分析にも用いることができます。