EGA-MS法とは昇温加熱装置と質量分析計を不活性の金属キャピラリーで直結し、試料を昇温加熱した時に発生するガスをリアルタイムでモニターする手法です。また、EGA-GC/MS法とはEGAサーモグラム中の任意の温度領域で発生するガスをトラップし、GC/MS測定を行う手法です。
本分析事例ではEGA-MS法とEGA-GC/MS法を用いてポリマーの熱分解挙動を解析した事例をご紹介します。
図1 試料の構造式
塩化ビニル - 酢酸ビニル共重合体
昇温加熱装置にはフロンティア・ラボ製EGA/PY-3030D、ガスクロマトグラフにはAgilent Technologies製7890A、質量分析計にはJEOL製JMS-T100GCVを用いました。
試料のEGA-MS測定の結果、図2に示すEGAサーモグラムが得られました。EGAサーモグラム上には250〜375℃付近と400〜500℃付近に二つのピークが検出されました(ピークA、B)。これより、試料の熱分解は二段階で進行していると考えられます。また、図3に示す各ピークのMSスペクトルより、それぞれの温度領域では複数の成分が発生していることがわかりました。EGA-MS法は、カラムによる分離が行われない分析手法のため、ピークA、Bで検出された成分を定性することは困難です。
図2 EGA-MS法による試料のEGAサーモグラム |
図3 各ピークのMSスペクトル |
次に、EGA-GC/MS法によりピークAおよびBの温度領域で発生したガスを定性しました。得られたGC/MS-TICC(トータルイオンカレントクロマトグラム)を図4に示します。
図4 EGA-GC/MS法によるピークAおよびBのGC/MS-TIC
図4より、ピークAは塩化水素、酢酸やベンゼンなどからなることがわかりました。また、ピークBはトルエンなどの芳香族化合物やメチルナフタレンなどの多環芳香族からなることがわかりました。そこで、EGAサーモグラムから塩化水素(m/z 36)、酢酸(m/z 60)、ベンゼン(m/z 78)および芳香族化合物(m/z 91)に特徴的なイオンを抜き出し、MSクロマトグラムを描きました(図5)。
図5より、側鎖の脱離により生成する塩化水素や酢酸は250〜375℃付近で発生することがわかりました(m/z 36,60)。また、側鎖の脱離に伴って生成するポリエン鎖が分解・環化することで発生するベンゼンやベンゼン以外芳香族化合物は250〜500℃付近で発生することがわかりました(m/z 78,91)。
図5 EGAサーモグラムとMSクロマトグラム
このように、EGA-MS法およびEGA-GC/MS法を併用することでポリマーの熱分解挙動を解析することができます。