高分子材料表面の官能基は、親水性・密着性・防汚性などの特性に影響するので、その種類や量を評価することは重要です。高分子材料表面の元素の化学状態などを把握するにはX線光電子分光(XPS)が用いられますが、直接材料表面の官能基を定量することは困難です。そこで、XPS分析に適したヘテロ元素を含む試薬で特定の官能基を化学修飾し、導入したマーカー元素から表面官能基(水酸基、カルボキシ基)を評価1)した事例を紹介します。
ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)
XPS;単色化AlKα線(アルバック・ファイ製 PHI5000 VersaProbe II)
無水トリフルオロ酢酸(TFAA)によるポリビニルアルコール(PVA)(ケン化度:約80%)中の水酸基の修飾を例に挙げて紹介します。TFAAによる水酸基の修飾スキームは図1の通りであり、エステル化(化学修飾)反応により水酸基のHがトリフルオロアセチル基に置換されます。
化学修飾前後のPVAについてXPS分析を行い、取得されたC1sスペクトルを図2に示します。化学修飾後のスペクトルには、化学修飾前には無かったCF3由来のピークが出現しました。マーク元素であるFに着目して解析を行った結果、主鎖のCのうち水酸基を持ったCの割合は化学量論組成と同等の38at%でした。

図1 水酸基の化学修飾

図2 化学修飾前後のC1sスペクトル
トリフルオロエタノール(TFE)によるポリアクリル酸(PAA)中のカルボキシ基の修飾を例に挙げて紹介します。TFEによるカルボキシ基の修飾スキームは図3の通りであり、エステル化(化学修飾)反応によりカルボキシ基のOHがトリフルオロエトキシ基に置換されます。
化学修飾前後のPAAについてXPS分析を行い、取得されたC1sスペクトルを図4に示します。修飾後のスペクトルには、修飾前には無かったC-OやCF3由来のピークが出現しました。マーク元素であるFに着目して解析を行った結果、主鎖のCのうちカルボキシ基を持ったCの割合は26at%でした。
本試料の場合は、修飾前のC1sスペクトル中のO-C=Oピークの割合からもカルボキシ基の割合を求めることが可能です。このピークから求めたカルボキシ基の割合は上述の化学修飾による分析結果とよく一致しました。これにより全てのカルボキシ基に対してエステル化反応が進行したことが確認されました。

図3 カルボキシル基の化学修飾

図4 化学修飾前後のC1sスペクトル
化学修飾-XPS法を光学用ポリマーフィルムや液晶ディスプレイ用配向膜などに対して適用することで、試料間の表面官能基の相対比較により、物性との相関を把握することが可能となります。