分析事例

コーヒー豆中のクロロゲン酸(3-CQA)の局在解析

コーヒー豆はポリフェノールの1 種であるクロロゲン酸(3-CQA)を多く含有しています。3-CQAは、焙煎の進行とともにコーヒー酸とキナ酸に分解することが知られています。しかし、3-CQAがコーヒー豆の中でどのように分布しているのかは明らかになっていません。そこで、コーヒー豆のマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI/MS)による測定を実施して、3-CQA の局在解析を行いました。

分析試料

コーヒー生豆および焙煎度の異なるコーヒー豆2 種(浅煎り・深煎り)

表1 焙煎度の異なるコーヒー豆中の各成分の相対量
  生豆 浅煎り 深煎り
3-CQA 1.0 0.6 0.1
コーヒー酸 1.0 6.2 26.2
キナ酸 1.0 3.4 4.1

分析方法

3 種類の試料に含まれる3-CQA およびその分解物であるコーヒー酸、キナ酸の含有量は、LC/MS 法により求めました。コーヒー豆(生豆・浅煎り)の薄膜切片を作成しました。3-CQA の検出を確認するために、切片の一部に3-CQA 標準溶液を滴下しました(3-CQA 濃度:15 pmol/spot)。適切な前処理を行った後にイメージングMALDI/MS 測定を実施しました。

結果と考察

3 種類の試料のLC/MS 分析結果を表1 に示します。この結果から、コーヒー豆の焙煎が進行するとともに、3-CQA が減少し、この分解物であるコーヒー酸およびキナ酸が増加することが示されました。

3-CQA 標準溶液のMALDI/MS スペクトルを図1 に示します。3-CQA 由来のピークであるm/z 355 が観測されました。生豆および浅煎り切片の3-CQA の局在解析を行った結果を図2に示します。

  • グラフ1
    図1 3-CQA のMALDI/MS スペクトル
  • 図
    図2 コーヒー豆のイメージングMALDI/MS 測定結果

MALDI/MSの測定から、生豆の3-CQAの含有量は浅煎りよりも多く、LC/MS法の結果の相関が得られました。また、コーヒー豆(生豆)の3-CQAは、図2の赤矢印で示す胚乳の内側に多く分布していることが確認できました(図2(左))。

MALDI/MSによる局在解析を行うことで、目的の成分がどのような分布をしているかを知ることができます。本手法は、植物体や生体組織の分析にも応用することが可能です。