分析事例

医薬品中の微量不純物の有機構造解析

ICH Q3A, Bでは医薬品(原薬及び製剤)に含まれる一定量以上の有機不純物について構造決定が求められています。不純物の構造決定には、対象成分の単離精製やMS及びNMRのスペクトル解析が必要となります。ここでは、市販製剤に有効成分の0.1%に相当する不純物を添加した模擬試料を用いて、微量不純物の単離、構造解析を行った事例を紹介します。

分析試料

  • 市販製剤:ロキソプロフェンを有効成分とする製剤
  • 不純物:ロキソプロフェンのメチルエステル化物

分析条件

市販製剤に有効成分の0.1%に相当するロキソプロフェンのメチルエステル化物(不純物)を添加し、模擬試料を作成しました。
模擬試料を粉砕後、溶剤抽出、分取LCにより、不純物を単離しました。これをLC-TOF MS及びNMR分析に供し、構造解析を行いました。

分析結果

(1)分取物の純度分析(LC測定)

模擬試料の分取LC前後のLC測定結果を図1(a)、(b)に示します。分取後の不純物は75μg(HPLC純度は、97area%)でした。これをLC-TOF MS測定及びNMR測定に供しました。

グラフ

図1 分取前後のLCクロマトグラム

(2)不純物の質量分析(LC-TOF MS測定)

分取した不純物をLC-TOF MS法-正イオンモードで測定しました(図2)。主たるLCピークのプリカーサーイオンは、不純物のアンモニウム付加体([M+NH4]+、m/z 278.177(化学式C16H24N1O3))と一致しました。プロダクトイオンとしてm/z 117.070, 177.092, 201.128のイオンが検出されました。
図3にロキソプロフェンのメチルエステル化物のプロダクトイオンの帰属を示します。

グラフ

図2 分取した不純物のMSスペクトル(上段)および
m/z 278.177のイオンのMS/MS スペクトル(下段)

ロキソプロフェンのメチルエステル化物プロダクトイオン帰属
図3 ロキソプロフェンのメチルエステル化物プロダクトイオン帰属

(3)不純物のNMRによる構造解析

分取によって得られた不純物(全量75μg)をクロロホルム-dに溶解させ、クライオプローブ付700MHzNMRの測定に供しました。1H NMR及び1H−13C HSQCスペクトルを図4、5に示します。図4より、わずか0.1mgにも満たない分取された不純物であっても、S/Nの高いスペクトルが得られることが示されました。さらに図5より、このわずかな分取物でも十分に構造解析を行える二次元NMRスペクトルを取得可能であることが示されました。図5の帰属の一例を挙げると、ロキソプロフェンには存在しないメチルエステル(図3の*印参照)の相関ピークが1H NMRの3.7 ppmと13C NMRの52 ppmに観測されています。

グラフ
図4 分取した不純物の1H NMRスペクトル

グラフ

図5 分取した不純物の1H−13C HSQCスペクトル(CH3、CH:、CH2

(4)まとめ

市販製剤は原薬に様々な賦形剤が加えられた混合物となっています。製剤中に含まれる0.1%程度の不純物であれば、分取LC装置により単離し、LC-TOF MS測定およびクライオプローブ付700MHzNMRの測定を行い、それらのスペクトルを解析することで構造決定が可能です。