カネカテクノリサーチが保有するX線光電子分光(XPS)装置は500℃までの加熱機構を備えております。ここでは、2種類の金属箔をXPS装置内で加熱し、加熱前後でXPS分析を行うことで、加熱による金属元素の化学状態変化を評価した事例を紹介します。
加熱前および500℃加熱後に測定したCu2pスペクトルとCu LMM Augerスペクトルを図1に示します。加熱前のCu2pスペクトルにはCuO特有のサテライトピークが観測されました。また、加熱後のCu LMM Augerスペクトルのピークは加熱前(CuOの位置)より低運動エネルギー側(Cu2Oの位置)にシフトしました。以上のことから、Cuの主たる化学状態は、加熱前ではCuO、加熱後ではCu2Oと推測され、装置内での加熱によって試料表面のCuが還元されたと考えられます。
加熱前および500℃加熱後に測定したXPSスペクトル(Ag3d、S2p、Cl2pスペクトル、Ag MNN Augerスペクトル)を図2に示します。Ag3dスペクトルではピークのシフトがごく僅かなため、加熱前後での化学状態の違いを評価することが難しいですが、Ag MNN Augerスペクトルに着目すると、ピークのシフトが顕著で、加熱によってピークがAg2SやAgClの位置から金属Agの位置に変化しました。また、S2p、Cl2pスペクトルに着目すると、加熱前ではS2pとCl2pのピークが明瞭に観測されましたが、加熱後ではCl2pピークは消失し、S2pピークは加熱前より弱くなりました。一般的にAgは大気腐食すると大気中のH2SやCl2により、Ag2SやAgClに変化します。装置内での加熱によってAg2SやAgCl からClやSが脱離して、金属Agの状態に変化したと考えられます。
XPS分析を行うことで、真空下での試料の温度上昇に伴う化学状態の変化を評価することが可能です。また、カネカテクノリサーチが保有するX線光電子分光(XPS)装置は、今回行った加熱前後でのXPS測定の他に、加熱しながらのXPS測定も可能であるため、反応速度が遅ければ、化学状態が変化していく様子を評価することも可能です。