分析事例

リサイクルプラスチックの耐熱寿命予測(TG-MS)

環境負荷への意識の高まりによりリサイクルプラスチックの利用が進む一方で、プラスチックのリサイクルプロセスで受ける熱履歴や粉砕等の影響による耐熱性の低下が課題となっています。しかしながら、JIS S 2029のような耐熱性の評価には多くの時間がかかるため、簡易的なスクリーニング方法が求められています。
本資料では、TG-MS法を用いた熱分解挙動に基づく速度論解析によりポリスチレンの耐熱寿命予測を行った事例を紹介します。

分析試料

  • ポリスチレン(PS)(バージン品、リサイクル品)

分析装置

  • TG-DTA:Rigaku製Thermo plus EVO2
  • GC-MS:Agilent製8890GC/ 5977B Inert P

分析結果

TG-MS法により、PSをHe雰囲気下で室温から600℃まで昇温加熱 (φ2,5,10,20℃/min.) し、分解時に発生するスチレンの発生量から反応(分解)率1~99%に対応する温度を求めました(図1)。得られた温度データをもとに小沢プロット1)を作成(図2)し、その傾きから活性化エネルギーを算出することで、PSの耐熱寿命を予測しました。この結果、バージン品とリサイクル品を80℃で保持した際に50%まで分解するのにかかる時間は両者ともに約6×109年であり、今回分析で用いたバージン品とリサイクル品では、耐熱寿命は同等であることが分かりました。

  • 図1のグラフ
    図1 反応率グラフ
  • 図2のグラフ
    図2 小沢プロット
表1 反応率10~90%の平均活性化エネルギーおよび80℃保持での耐熱寿命
分析試料 活性化エネルギー(単位:kJ/mol) 耐熱寿命(年)
バージン品 215 6.0×109
リサイクル品 218 6.4×109

まとめ

速度論解析により短時間でプラスチックの耐熱寿命の予測が行え、簡易にバージン品とリサイクル品の耐熱寿命の比較を行うことが可能です。また、TG-MS法では材料に特徴的なMSイオンを用いることで複合材料に対応可能となり、複合材料を構成する個々の材料の熱分解に対する寿命を予測できます。

【参考文献】

1)小沢丈夫 『電気絶縁材料の耐熱寿命評価』 マテリアルライフ1994年6巻4号 pp.171-180