分析事例

リチウムイオン電池負極の大気非曝露XPS分析(XPS)

カネカテクノリサーチが保有するX線光電子分光(XPS)装置は、図1に示したトランスファーベッセルを用いた大気非曝露搬送機構を備えております。ここでは、リチウムイオン電池から採取した負極を大気に曝した場合と曝さない場合で分析し、大気に負極を曝すことで負極表面の化学状態が変質した事例を紹介します。

分析試料

  • 市販の電子機器で使用されたリチウムイオン電池の黒鉛負極(放電状態)

分析装置

  • グローブボックス(美和製作所製 パージ式)
  • XPS;単色化AlKα線(アルバック・ファイ製 PHI5000 VersaProbe II)

分析手順

  • トランスファーベッセルの写真
    図1 トランスファーベッセル
  • リチウムイオン電池の写真
    図2 18650円筒型リチウムイオン電池

グローブボックス内(Ar雰囲気)で18650円筒型リチウムイオン電池(図2)を解体して、負極を採取しました。採取した負極について、トランスファーベッセルを介してグローブボックス内からXPS装置内(真空)に搬送したものを大気非曝露負極、また、一旦グローブボックス外(大気中)に取り出してからXPS装置内に搬送したものを大気曝露負極とし、それぞれのXPS分析を実施しました。

分析結果

大気非曝露負極と大気曝露負極のC1sスペクトルを図3に示します。充放電を繰り返すと電極表面にSEI (Solid Electrolyte Interphase)が形成することが一般的に知られており、両スペクトルともSEIの状態を反映して有機物やリチウム塩由来の状態が現れています。
両スペクトルは一致せず、大気曝露負極のスペクトルは大気非曝露負極よりGraphiteの割合が少なく、O-C=Oなどの割合が多いことが分かります。このことにより、大気曝露負極表面のSEIは大気に曝されたことで、大気成分と反応して変質したことが示唆されます。

負極表面のC1sスペクトルの画像
図3 負極表面のC1sスペクトル

まとめ

大気非曝露搬送機構を用いて、大気成分と反応する試料を変質させずに分析することが可能です。