分析事例

Ar-GCIBを用いたXPSによる有機ELデバイスの深さ方向分析

Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)スパッタはAr単原子イオンビームスパッタに比べて有機物に及ぼす損傷が抑制されるため、有機材料に対して非常に有用な加工方法です。ここでは有機多層構造を有する有機ELデバイスのAr-GCIBスパッタによるX線光電子分光(XPS)深さ方向分析を紹介します。

分析試料

図1 有機ELデバイスの断面STEM像
図1 有機ELデバイスの断面STEM像

有機ELデバイスは図1に示すように、透明電極(ITO)上に正孔輸送層であるNPB※1)、発光層であるAlq3※2)、陰極(Al)が積層された有機多層構造です。この有機多層構造から陰極(Al)を取り除き、XPS分析試料としました。

※1)NPB : N,N’-Bis(naphthalen-1-yl)-N,N’-bis(phenyl)-benzidine
※2)Alq3 : Aluminato-tris-8-hydroxyquinolate

分析方法

XPS(単色化AlKα線)

分析結果

Ar-GCIBスパッタによるXPSデプスプロファイルを図2に示します。図2において、元素組成が異なる3つの層が確認されました。各層の元素組成を算出した結果を表1に示します。Alq3およびNPBの組成はともに化学量論組成に近く、各層の化学状態を反映した構造を捉えることができました。
一方、Ar単原子イオンビームスパッタで同様にデプスプロファイル測定を行ったところ、各層の元素組成は化学量論組成とかい離しています。よって、Ar-GCIBスパッタが有機材料の深さ方向分析に有用な加工方法であることが確認されました。

図2
図2 Ar-GCIBスパッタによるXPSデプスプロファイル

表1 Alq3とNPBの元素組成

表1