ディスプレイをはじめとする電子デバイスの多くは積層構造を有しています。積層試料の一部は、界面近傍(界面領域)でバルク(試料内部)と元素の組成や化学結合状態が異なります。界面領域は薄く、分析範囲が広いX線光電子分光(XPS)では垂直断面から化学結合状態を評価することは困難です。しかし、斜め切削装置(SAICAS)による加工を組み合わせることで、試料断面の表面積を拡張してXPSでの分析が可能となります。ここではタッチパネルについて界面領域の化学結合状態を分析した事例を紹介します。
図1 試料の構成と分析部位
SAICAS、XPS(単色化AlKα線)
SAICASで斜め切削断面を作製し、パッシベーション層中のバルク領域とITO層との界面近傍を分析しました(図1)。
(SAICAS:ダイプラ・ウィンテス製 DN-20S型)
(XPS:アルバック・ファイ製 PHI5000 VersaProbeⅡ)
図1の部位1~5をXPS分析して得られたC1sスペクトル(284.6eVのピーク強度が揃うように規格化した)とIn3dスペクトルをそれぞれ図2、図3に示します。図2に着目すると、分析部位がITO層に近づくと286eV付近のピーク成分が強くなりました(図2中の黒矢印部分)。286eV付近は酸素との結合に由来するピーク成分です。そのため、パッシベーション層の界面領域における炭素の化学結合状態はバルク領域と異なり、酸素との結合の割合が多いことが分かりました。なお、図3において、部位4、5ではIn由来のピークが444eV付近と452eV付近に観測され、ITO層に非常に近い領域であることが分かります。
このように、SAICASとXPSを組み合わせることで、通常は断面からのXPS分析が困難な界面領域や膜厚が薄い層の分析を行うことが可能となります。