高分子材料表面の官能基は、親水性・密着性・防汚性などの特性に影響するので、その種類や量を評価することは重要です。高分子材料表面の元素の化学状態などを把握するにはX線光電子分光(XPS)が用いられますが、直接材料表面の官能基を定量することは困難です。そこで、XPS分析に適したヘテロ元素を含む試薬で特定の官能基を化学修飾し、導入したヘテロ元素から表面官能基(アミノ基、シラノール基)の割合を評価1,2)した事例を紹介します。
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)中のアミノ基を、無水トリフルオロ酢酸(TFAA)で修飾した事例を紹介します。TFAAによるアミノ基の修飾スキームは図1の通りであり、アミド化(化学修飾)反応によりアミノ基のHがトリフルオロアセチル基に置換されます。
化学修飾前後のDADPEについてXPS分析を行い、取得したC1sスペクトルを図2に示します。化学修飾後のスペクトルには、化学修飾前には無かったC=OやCF3由来のピークが出現しました。ヘテロ元素であるFに着目して解析を行った結果、試料由来のCに対するアミノ基の割合は19at%でした。
OH終端したSiウエハ表面のシラノール基を、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)で修飾した事例を紹介します。FOCSによるシラノール基の修飾スキームは図3の通りであり、化学修飾反応によりシラノール基のHがFを含む化合物に置換されます。
化学修飾前後のOH終端したSiウエハについてXPS分析を行い、取得した修飾後のC1sスペクトルを図4に示します。化学修飾反応前には無かったCF2やCF3由来のピークが出現しました。ヘテロ元素であるFに着目して解析を行った結果、試料由来のSiに対するシラノール基の割合は3at%でした。
化学修飾した試料のXPS分析によって表面官能基の割合を求めることが可能です。また、今回行った評価の他に、材料特性が異なる試料表面を分析して表面官能基の割合を比較することで、表面官能基が材料特性に与える影響を評価することも可能です。